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池田敏
アメリカTV・映画ライター。映画誌「キネマ旬報」「SCREEN」やTV誌「TV TARO」に寄稿。最近40歳になりました。


9月26日(土)S5#12「ジョン・ヘンリー」“Sabotage”

12 1999年12月26日。クリスマス直後のバーゲンで沸く家電量販店。仕事の合間に若い男女の店員が冗談を言い合う一方、どこかで誰かが爆弾を製造中。仕事に戻った男性店員カートが入って行った扉は直後、大爆発で吹き飛ぶ。カートは亡くなり、6人が負傷する。
そして現在、ある朝スポーツジムのロッカーが爆発し、元空軍パイロットのジョンが手を吹き飛ばされた上、6人が軽傷を負う爆弾事件が発生。スティルマンに呼び出されたリリーたちは、99年に家電量販店、01年にエンジニアリング会社、03年に郡立病院でも同じ手口の爆弾事件が起きていたと聞かされ、コールドケースの扉を開く。
この連続爆弾事件、01年のキネティック・コア社では社員のシュミットが失明し、03年の事件では内科助手のロデリックが死亡していたが、被害者たちの接点はゼロ。手術が終わったジョンはリリーに爆発の直後、口笛を吹きながら立ち去る男がいたと証言するが、顔は見なかったという。ジムの清掃員ペレスは事件の直前、爆発するロッカーにオルゴールがあったと思い出す。爆弾に使われた木製のオルゴールについてメーカーに尋ねると、フィラデルフィアに住むバクスターという男にジョン・ヘンリーという型のオルゴールを複数売ったと分かる。警察はオルゴールの送り先のアパートに突入するが誰もおらず、事件の被害者の一部が載った新聞記事の切り抜きの数々が見つかる。そんな新聞記事の中に、ジムの会員だったルークという男性が。狙われたのはジョンではなく彼だったのか。

銀行マンのルークは仕事上トラブルは無かったというが、ルークの妻ベスは怪しい電話を受けたと思い出し、電話の向こうの男は彼女から夫がジムに行く時間を聞き出していた。ルークはたまたまジムに行かなかったという。トマス検事補がある事実を突き止める。それは、バクスターは95年から刑務所にいるというもの。ヴェラたちが面会したバクスターの腕には“ジョン”と“ヘンリー”というタトゥーが。バクスターは息子2人の名前だという。犯人はジョン・ヘンリーという名前にメッセージをこめたようだ。バクスターの名を騙る男が利用した図書館の係員によれば男はジョン・ヘンリー通りに住んだと語っていたが、そこにはキネティック・コア社の看板が。調べると96年、ある家の所有権をめぐって裁判が起きていた。住宅の所有者ロッシリーニは再開発に最後まで抵抗したが破産し、99年に姿を消していた。実は彼ははキネティック・コア社に10年勤めたが解雇され、会社を恨んでいた。現在のシュミットはリストラしたロッシリーニが機械工学の修士号を持っていたと証言し、ロッシリーニの元妻は離婚する前、当時4歳の娘ソフィアが小児がんである網膜芽細胞腫にかかり、病院の関係者に八つ当たりしていたと認める。病院の関係者とは03年の犠牲者、ロデリックだ。
とうとう捜査にスティルマンが恐れていたようなFBIの介入が加わり、リリーたちは捜査を急ぐ。ロッシリーニの弟ルチアーノは、爆破された家電量販店を経営していた。現在のルチアーノは家が取り壊される日、自分たちの父親がオルゴール職人だったのが誇りだという兄とケンカしたと振り返る。2人の父親は20丁目駅でも仕事をしていた。
犯人は、やはりロッシリーニだった。20丁目駅にオルゴールを持って立てこもったロッシリーニを警察は包囲し、スティルマンが説得を開始。ロッシリーニは99年、弟の家電量販店で不良品の返品を断られ、最初の犯行に及んだと語る。その光景を見守るリリーは、ロッシリーニが実は爆弾を持っておらず、他の場所に仕掛けたと考え、ルークの家を護衛しているヴェラの携帯に一報を入れる。携帯の向こうで爆発音が聞こえた途端、ロッシリーニはすぐに警察に投降。しかしルークの家族は無事助かった……。

ヴァレンズはトマスとの交際を続けてきたが、トマスが爆弾事件の捜査をFBIにリークしたことで彼女と別れることを決める……。

【今回の“深読み”】
お約束ともいうべきパターンを幾つか崩していたのが意欲的だった今回の「コールドケース」。崩されたパターンその1は、犯行が複数の年にまたがること。だからかBGMの各ナンバーが発表された年度もバラバラだった。だからこそ毎年クリスマスになると流れるワム!の定番「ラスト・クリスマス」を使ったのが、逆に効果的だったと思える。
崩されたパターンその2は、ひどい言い方かもしれないが、犯人にも犠牲者にも同情できる人物があまりいなかったこと。かつて日本の刑事ドラマ「特捜最前線」にもそんなエピソードが幾つかあったと記憶するが、まさか「コールドケース」で復活するとは(笑)。被害者のほうは気の毒なジョンを除くとしても、中国製品を小馬鹿にするカート、患者に冷たいロデリック、ロッシリーニをリストラしたシュミットと、いずれも問題ありだ。
とはいえ、一番問題だったのは、やはりロッシリーニ。幾ら自分やその価値観を否定されたとはいえ、やっていることは逆恨みそのもので、最後もルークを狙ったというよりその妻子を危険にさらしただけで、ロッシリーニが爆弾を別の場所に仕掛けたとリリーが気づかなかったらどうなっていたのか冷や冷やもの。ロッシリーニの一番の誤解は、自分を庶民の英雄、ジョン・ヘンリー(後述)になぞらえて正当化しようとしたことである。当たり前だが、ジョン・ヘンリーは誰も殺そうとしなかったのだから。
とはいえ、そういう筆者もジョン・ヘンリーのことをよく知らず、今回は大いに勉強になったという点や、社会派ミステリーの面目躍如だったという点で「コールドケース」ならではのエピソードに仕上がっており楽しめたというのも、また事実である。一説によればユナボマー事件(これも後述する)をモデルにしたという独自の視点も楽しめた。
レギュラーの刑事陣に目を向けると、ロペスを相手に久しぶりにスペイン語を聞かせたヴァレンズだが、またも女性運の無さを証明するとは……。次の恋人が心配です(笑)。

【ジョン・ヘンリー】
19世紀の米国、人間の労働力が機械に取って換わられていく中、人間の労働力が機械に劣らないことを証明したという、米国の労働者階級にとっての伝説的英雄。とはいえ、ロッシリーニは学生時代に学んだ機械工学を応用して爆弾を作り(むしろ反ジョン・ヘンリー的だ)、まったく罪のない者まで傷つけたのはどうにもこうにも許されようがない。

【ユナボマー事件】
1978年から1995年にかけてカリフォルニア大学バークレー校の元助教授、セオドア・ジョン・カジンスキーが起こした連続爆弾事件。全米各地の大学と航空業界関係者に爆発物を送りつけ、3人を殺害し、約30人を負傷させた。カジンスキーがおかしかったのは、「産業社会とその未来」と名付けた犯行声明。産業革命は悪で、自然回帰を促す内容だったというが、やったことといえば只の爆弾魔。その点、「コールドケース」の今回のロッシリーニとそっくりで、モデルにされたと指摘されれば合点がいく存在である。ちなみにカジンスキーには終身刑が言い渡され、現在も刑務所で服役中である。

2009.9.27|エピソードガイド|コメント(1)トラックバック(0)

9月19日(土)S5#11「封筒」“Family 8108”

11_2 1942年4月5日、カリフォルニア州サニーデール。平和な住宅街で幸せに暮らす日系人のタカハシ家だが、ある通告を知って血の気が引く。それは日系人すべてに退去を迫るものだった。それから約3年8か月後の45年12月1日、タカハシ家の父親レイは遠くフィラデルフィア、ある駅の階段の下で遺体となって見つかるが、警察はレイが酔っぱらいに突き飛ばされたと捜査を打ち切る。
そして現在、レイの娘バーバラはフィラデルフィア市警に、父親が殺された事件の真相究明を依頼。バーバラの兄ビリーは第二次世界大戦で戦死していた他、バーバラは収容所生まれだったが、バーバラは母イヴリンに政府から賠償金の小切手が届いたことから、初めてそのことを知った。母は収容所暮らしを恥じて娘に隠し、娘に笑顔を1度も見せずにいた。リリーたちはコールドケースの扉を開く。
捜査の手がかりは亡くなった時にレイが握りしめていた封筒だけ。宛先はタカハシ家が送り込まれたカリフォルニア州マンザナーの収容所で、差出人は不明。マンザナー収容所には当時、10万人以上の日系人が財産を奪われた上で収容されていた。現在のイヴリンは収容所の初日、日系人嫌いの看守ラリーとレイが揉めたと証言。事件当時ラリーはイタリアに駐在したが、1945年12月には陸軍対海軍のフットボール戦を観戦するため、フィラデルフィアにいて、同じ会場で第二次大戦の勲章授与式も行われていた。現在のラリーは自分のアリバイを主張し、タカハシ夫妻のケンカを見たと証言する。

スティルマンが停職後に警察を辞めようとしていると知ったリリーは、陸軍出身のスティルマンに助言を求めることに。スティルマンは封筒がフランスの陸軍郵便局から出されたこと、検閲を通っていないので将校クラスが出したと指摘。当時軍で将校だったビリーの幼なじみの白人、スキップはレイに入隊を薦められたビリーだが、絵を描くのが好きなど大人しいビリーが難色を示したため、説得のために収容所に行ったと回想。レイが同じ日系人のシンジと揉めていたという。シンジは若者たちに入隊を勧めるレイと対立したが、レイのせいでマンザナーより過酷なトゥールレイクの収容所に移されていた。現在のシンジはレイが収容所で働く白人教師メアリー・アンと親密だったと証言。現在のメアリー・アンはレイと1度だけキスしたと認めるが、妻を愛するレイとそれ以上の仲にならなかったと主張。そして2人の関係を知ったビリーがやけになって入隊したと振り返る。当時バーバラを身ごもっていたイヴリンは、自分は嫉妬しなかったと否定。そしてビリーの戦死を伝える訃報が届いた日、シンジの息子の戦死も判明したという。また1945年の12月、シンジもフィラデルフィアにいたとわかる。
現在のシンジはマンザナーに届いたビリーの手紙を、自分と同じく息子を犠牲にした者同士、レイに親切心から運んだだけだと主張。レイは米国に対する信頼心・忠誠心をすっかり失っていたが、手紙を読んだ途端、レイが“ビリーの勲章をもらう”と言い出したとも思い出す。勲章を貰うには上官の推薦状が必要だったが、ビリーが戦死したフランスの戦場で彼の上官だったのは……。
犯人はスキップだった。南太平洋で日本軍と戦ううち、日系人に不信を覚えたスキップは日系人を敵として見るようになり、カッとなってレイを駅の階段から突き落とした。そんなスキップは、その時レイが持っていた封筒の中の手紙を今も持っており、そこにはビリーが、ケンカ別れした父とやり直したいという言葉があった……。
一方、リリーら部下たちから信頼されていると気づいたスティルマンは退職しないことを決意する。

【今回の“深読み”】
いきなりだが、今回の「コールドケース」が全米放送された日を調べてみて驚いた。2007年12月9日(現地時間)、つまりその65年前に日本が真珠湾を攻撃した日の2日後だったのだ。エピソード自体も感動的だったが、この番組のスタッフがそこまで考えて作っていることに、あらためて感心させられた。太平洋戦争中、日系人が強制収容されたことは有名な話だろう。社会的差別を憎む「コールドケース」がこの史実を題材にしたことに筆者は感謝したい。
被害者レイについて考える。日本生まれでなく米国で生まれたのに、買ったばかりの車(カリフォルニアの市民の象徴でもある)など財産を奪われ、しかも愛する息子まで奪われた、その心境は悲しいというのを通り越してすべてが虚しく思えるほどだったろう。ビリーに勲章をとスキップに詰め寄った時、レイの祖国・米国に対する愛情は憎しみに転じたのかも。一方、スキップにも少しだけ同情できる点が。最終的に米国が勝利したとはいえ南太平洋の激戦は凄まじく、まだビリーと同じ世代の少年だったスキップもPTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかっていたかもしれない。
もう1つ、印象に残ったのは、かつてレイとケンカした白人ラリーがミラーに言った、“9・11の後、飛行機で隣にアラブ系が座るのは嫌じゃなかったか”という一言。有色人種のミラーだからこそこの言葉の重みは分かったはず。
人間は愚かで、戦争も人種差別もいつの時代にも無くならない、だからこそ過去に習い学ぼうという番組の姿勢を再確認させられた、今回の「コールドケース」だ。
レギュラー陣に目を向けると、“スティルマンが辞職!?”という冒頭の話題にびっくり。彼の娘のようなリリーがそれを思いとどまらせようとしたのが可愛い。以前も紹介されたが、スティルマンはベトナム帰りの元軍人。陸軍が絡んだ今回の事件に協力するうち、今は殺人課が自分の戦場だと思ったのか。だとしたらカッコいい!

【マンザナー強制収容所】
太平洋戦争中、強制収容された日系米国人は約12万人もいたが、そのうちの約1万人が送り込まれたのがマンザナーの収容所。42年12月には暴動が起きるなど混乱した結果、今エピソードのように反抗的な収容者がトゥールレイクの収容所に転送させられたというのは史実である。日本未放送だが、1976年にTV“Farewell to Mazanar”が全米放送され、戦時中に実際に収容されたパット・モリタをはじめ、マコ岩松らが出演し、ヒロ・ナリタが撮影監督をつとめた。また、余談だが、日系2世であるジャニー喜多川とその姉メリー喜多川も収容された経験がある。

【第442連隊】
正式名称は米陸軍第442連隊戦闘団。日系人の強制収用を批判されたこと、ハワイの日系二世約1、400名を再編した“第100歩兵大隊”の成功を受けて米政府は1943年2月、日系人による部隊が編制すると発表。本土の強制収容所からは約800名が志願した。敵に寝返らないか心配されたため、彼らは太平洋戦線でなく欧州戦線に出征。累積死傷率は310~320%という驚異的数字で(何度も負傷しては戦場に戻った兵士もいたのだろう)、米陸軍史上でもっとも多くの勲章を受けた部隊となった。だからこそ、レイの悔しさが分かる。

【美術監督のレイ・ヤマガタ】
「コールドケース」に何人かいる美術監督の1人。名前から察するに日系人だと思われるが、今回は収容所のセットなど、はりきって手がけたのではないか。この人、「LOST」「エイリアス」にも参加。がんばってほしいものです。

2009.9.20|エピソードガイド|コメント(2)トラックバック(0)

9月12日(土)S5#10「掲示板」“Justice”

010 1982年5月18日。ある大学の卒業式。堂々とした態度で答辞を読み上げる、学生代表のマイク。ハンサムなマスクと爽やかな態度は非の打ちどころが無いほど。しかし、壇上の彼を見ていた数人の女学生は、複雑な思いを胸に式場を後にしていく……。直後、キャンパスで、銃で撃たれたマイクの遺体が見つかる。
そして現在、マイクの25回忌が近づくが、彼の墓が荒らされ、墓石に“レイプ犯”と書かれる事件が。学業はオールAでスポーツマンという学園の人気者マイクには、別の顔があったのか。リリーたちはコールドケースの扉を開く。
25年前、凶器の9mm自動拳銃は発見されたが、製造番号は不明で指紋も出ずに終わった。意外にも、マイクを容疑者とするレイプの被害届が見つかる。手続きした女性警官のマギーは現在、訴えたのは女子学生のテシーだったと証言するが、証拠不足でマイクが無罪になるのは明らかで、テシーに告訴を取り下げさせたという。現在のテシーは図書館でマイクに声をかけられ、デートの帰りに家へ送ってもらった際にレイプされたと認め、弟のジミーが隣室で寝ていたので大声を上げられなかったという。マイクの卒業アルバムを見たリリーは、約10人の女子学生の写真にバラの絵が記されたことに気づく。マイクは彼女たち全員をレイプしたようだ。女性たちは警察に呼び出されるが、シェイナという女学生だけはマイクが殺される数か月に自殺していた。他の女性たちは、カリンは親友に打ち明けたが彼女も悪いといわれ、レジーはマイクの子を妊娠したがひそかに堕胎していた。そしてメリンダだけはレイプされたことを否定する。

リリーは墓地のカメラが撮影した画像からレジーが墓石荒らしだったと睨み、彼女もそれを認める。一方、自殺したシェイナの銃が父親ジェイソンのもので、マイクを殺したのと同じ9mm口径だったと判明。ジェイソンは自分が落ち込むシェイナを救えなかったのを後悔していたが、娘が自殺した現場に女性警官マギーが来て、シェイナの日記を読んでいたと思い出す。現在のマギーは当時、シェイナの自殺を防げたと考え、ある大胆な行動に出ていたと告白。それはテシーに自己防衛を装えば罪に問われないと聞かせ、拳銃を渡すことだった。同じ頃、リリーはシェイナの日記から新事実を発見。被害者の女学生たちの一部は、どうやら互いに知り合いだったらしい。彼女たちが掲示板代わりにしていたのは、大学のトイレの落書きにちがいない。リリーはトイレの壁の古い壁紙の下から多数の落書きを見つける。それらはマイクに対する復讐の決意を示していた。テシー、メリンダ、カリン、レジーはみんなで集まり、マイクに銃を突きつけてレイプしたことを認めさせたのを認めるが、復讐は思いとどまったと証言。その後、カリンの部屋で一夜を過ごしたとテシー以外はいう。事件の夜、弟と一緒にいたというテシーの証言と矛盾が……。
犯人はテシーの弟、ジミーだった。事件の夜、姉たちとマイクのやり取りをこっそり見ていたジミーだが、姉たちが去った後、マイクが反省していないことに気づいたのだ。
しかしリリーは、ジミーが自己防衛でやったのではないかと彼の証言を誘導する。困惑するジミーとテシー。事件は意外な解決を迎えた……。

一方、殺人課はスティルマンが謹慎中のため、ジェフリーズがその代役に。しかしボスと呼ばれることに慣れず、釣りをしているスティルマンに気苦労を相談しに行く。

【今回の“深読み”】
今回の「コールドケース」は問題作だったのではないだろうか。しかし筆者は、同時にとても感動させられたというのが正直な感想だ。原題がシンプルに“Justice(正義)”なのが実に力強い。
これほどリリーが犯罪者に同情したのは、第2シーズン第4話の「ボス」以来ではないか。あの時(BGMが全曲ジョニー・キャッシュ)は被害者も犯罪者で、それに同情するのはリリーらしくないという声があったと確か記憶する。刑務所であれほど虐げられていた被害者なら同情するのは自然だと、筆者は個人的に思ったものだが……。
さて、事件が起きたのはまだ“デート・レイプ”という言葉も無かった1982年。ちょっと「ダーティハリー」が入った女性警官マギー(脱線するが「ダーティハリー」をパロディにしたTV「俺がハマーだ!」からの引用だとしたらスタッフは大したもんだ)が言った通り、“レイプの証明が難しい”という定説が米国には定着していたのだろう。テシーに同情したマギーが警察にあった拳銃を彼女に貸したという場面から、このエピソードはぐんぐん面白くなった(いや、正直にいうと犯人の推定身長が語られた前半の場面で犯人はすぐ予想がついてしまったが、偶然だったかもしれないということで……)。
リリーが前シーズンの最後で撃たれ、手術を受けた際の悪夢に悩まされているという導入部が、伏線としてぴたりとはまった。レイプされた女性の1人の証言に、彼女は心の中で大きく頷いていたにちがいない。第2シーズンの傑作「ハンター」「森」で心の傷を見せたリリーだが、前シーズンの銃撃事件でその傷はまた開いてしまったのか。
そんなリリーだから、ある意味、警官の道を踏み外す今回のクライマックスの配慮に、いい意味での切り札を切ったと筆者は感じた。そう示す台詞は無かったが、犯人のジミーは自分がマイクを殺したことに罪悪感を覚え、弁護士の道に進んだはずといったら、筆者の思い入れは激しすぎるのか。
なおかつ、今回の事件が重要なのは、25年前の事件であっても、いつまた起きてもおかしくないこと。被害者たちはトイレの壁を掲示板にしていたが、それはネット時代の今、いわゆる“学校裏サイト”のよう(学校裏サイトのほうは有害な情報が多いようだが)。もちろん、レイプ事件も後を絶たず、四半世紀の間、何も変わていないともいえる。あと日本ではネットの一部の掲示板がよく“トイレの落書き”といわれるが、ひょっとして米国でもそうなのか?
だからこそ、刑事の仕事は犯人を裁くことでなく、あくまで捕まえること、そんなハードボイルド魂がみなぎる「コールドケース」だが、ある意味リリーが自身で犯人を裁いた今回のようなエピソードも、たまにならあってもいいのではないかと思う。最終的な判断は見る者が判断すべきだが、今回のラスト、大学を避けて生きていた女性まで久しぶりに大学を訪れ、仲間たちと抱き合った、あの光景は筆者の心のフィルムに焼きついた。
それと今回は、ヴェラ、ジェフリーズ、スティルマンにも味があったなー(笑)。

【1982年のサウンド】
今回の各BGMには大きな共通項がある。どれもイギリス生まれのバンドの曲であることだ。この頃は“第2次ブリティッシュ・インベイジョン”の時代で(第1次はザ・ビートルズなど)、英国の新しい音楽が米国の音楽シーンを大きくインベイジョン(侵略)した。そして、今回の各曲を手がけたA Flock Of Seagulls、The Psychedelic Furs、Joy Division、The Cure、Duran Duranはいずれも当時の英国の新進バンド。今回、マイクに異議を申し立てた女性たちの絆もまたバンドのようで、それを反映させた選曲だとしたら、これは凄い凝り方ではないか。

【今回の「Behind the Scenes/100th anniversary Special」】
第100話を記念して本国で行われたパーティーの模様をお届けするスペシャル・ミニ番組「Behind the Scenes/100th anniversary Special」が第100~103話(「コールドケース5」第7~10話)の放送直後にオンエア中。今回は残念ながら最終回。前回に引き続いてリリー役のキャスリン・モリスが番組への熱い思いを語ります。番組のスペシャルサイトでネット配信もされるのでお楽しみに。

2009.9.13|エピソードガイド|コメント(0)トラックバック(0)

9月5日(土)S5#9「ドレス」“Boy Crazy”

09_2 1963年9月16日。グレースフェリー高校のある教室で、後方に座る男子生徒サムに女生徒たちからメモが回ってくる。不良のレッドがそれを取り上げ、“君は童貞?”と読みあげると、サムは激怒。逆ギレしたレッドはサムの胸ぐらをつかむが、サムには女性のような胸のふくらみがあり、教室は驚きに包まれる。やがて赤いドレスを着たサムの遺体がFDR公園の湖畔で見つかるが、警察は自殺と結論を下す……。
そして現在、アルコール中毒の男性が殺人課に来て、サムは殺されたと主張。サムが飛び降り自殺したと思われる橋にいた彼は、サムが流れていく直前、橋に1台の車が停まったという。当時の鑑識結果によれば、サムの肺に水は無く、殺された後、湖に投げ捨てられた可能性が高い。リリーたちはコールドケースの扉を開く。

16歳のサムは、本当はサマンサ・ランドールという少女だった。殺される2か月前に高校に編入してきたサムは、男子のような格好をして奇異に見られ、家出歴や補導歴もあったことから自殺と判断されたらしい。遺体のこめかみには打撲か火傷のような痕が。サムは父親アーチーは現在、トラブルメーカーだったサムが転校を繰り返したせいで経済的に困窮していたと証言し、サムがドムという男子生徒にからかわれていたと思い出す。しかし現在のドムは、友人がいない自分とサムは意気投合し、2人は不良のレッドを相手にしたドラッグレースで勝ち、レッドを怒らせたと証言。しかし現在のレッドは家庭科の教室でサムが女生徒のジェイニーに恥をかかせる事件があったと振り返る。しかし現在のジェイニーは当時、サムとドムが2人でいる光景を目撃したといい、ドムに好意を抱いたサムが彼にキスを迫り、断られていたと証言。そしてドムは、サムがレッドら不良たちにレイプされかかった時、校長が止めに入るまで、自分が助けられなかったこと、サムが高校を退学させられたことを語る。娘が退学したことをなぜか隠していたアーチーだが、実は娘を精神療養施設に入院させていたことを後悔していたからだった。そこで働いていた医師はすでに他界していたが、サムが脱走した直後に施設をやめた看護師は、サムが電気ショック療法を受けさせられたこと、彼女に同情してドムを施設に呼んだことを証言する。
犯人はドムだった。看護師の導きで病室に侵入したドムだが、すでにサムは廃人のようになっていた。ドムはサムと湖畔で“死んでも自由でいよう”と誓い合っていたが、ベッドの上で“自由にして”というサムの頼みを聞き入れ、サムを殺したのだった……。
一方、殺人課では内務監査の結果、ヴァレンズを30日間停職させるよう勧告を受けるが、スティルマンはこれを拒否。その結果、スティルマン自身が停職処分を受けることに!

【今回の“深読み”】
見終わった後しばらく、やるせない、という言葉しか思い浮かばなかった今回の「コールドケース」。性同一性障害がまだ今ほど認められていなかった時代、差別され、人権、そして生命まで奪われた少女の悲劇だ。時代や社会の価値観に押しつぶされていった人々(特に女性)を描くことが多い当番組らしい、今回も考えさせられるエピソードだった。
時代は1963年、今回の各BGMのように、音楽界では陽気で甘いオールディーズが流行したが、現実世界はハードだった(そのあたりのコントラストが巧い)。公民権法が制定される1964年の前年で、アフリカ系などのマイノリティが公民権を求める運動を展開していた頃だが、裏を返せば差別がまだ当たり前だった時代ということ。しかも現在でさえ定義付けに諸説ある性同一性障害となると、当時はサムのように周囲から偏見を持たれ、差別されたにちがいない。現在もそうだが性同一性障害は同性愛と誤解されることが多く、キリスト教が同性愛を認めないというのも背景にはあっただろう。
今回思い出したのは、実話を背景にした映画「ボーイズ・ドント・クライ」(1999)。ヒラリー・スワンクが性同一性障害の主人公ブランドンを熱演してアカデミー主演女優賞に輝いた話題作だが、ブランドンは同性愛者でもあった点、時代が1990年代だった点が今回の「コールドケース」とは異なる。但し、原語で聞くと、不良生徒の1人がサムに“Boys Don't Cry.”と言っている部分があり、やはり何かしら影響はあったと思う。
重要なのはこの時代、サムのような性同一性障害だけでなく、誰もが差別に遭う危険性があったことで、その傷も深く大きかった。ラスト、逮捕されたドムはサムの幻影を見たが、サムの表情には友情や愛情だけでない、冷たい感情もあった気がする。
レギュラー陣に目を向けると、何よりスティルマンに意外な展開が。ヴァレンズを守ろうと内務監査や上層部に抵抗した結果だが、早く無事に復帰してほしいもの。とはいえ、スティルマンがジェフリーズを呼んで“後は任せる”と頼んだ時の2人の雰囲気は、男らしくてシブくてカッコよかった。それにしてもヴァレンズはこの機に成長しないと……。

【FDR公園】
フィラデルフィアのそば、デラウェア川に近い公園で、FDRは第31代大統領、フランクリン・デラノ・ルーズヴェルト(Franklin Delano Roosevelt)のこと。

【今回の「Behind the Scenes/100th anniversary Special」】
第100話を記念して本国で行われたパーティーの模様をお届けするスペシャル・ミニ番組「Behind the Scenes/100th anniversary Special」が第100~103話(「コールドケース5」第7~10話)の放送直後にオンエア中。今回は、リリー役のキャスリン・モリス、キャット役のトレイシー・トムズのインタビューが見られます。番組のスペシャルサイトでネット配信もされるのでお楽しみに。

2009.9. 6|エピソードガイド|コメント(1)トラックバック(0)


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